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SCHRIFT
Spacing between planets: All Rights Reserved
Typography Basic
Line spacing
欧文における適切な行間とは?
Text by Ferdinand Ulrich & Edition Schrift
西洋のタイポグラフィの基本の本やウェブサイトなどで、タイポグラフィの基礎である歴史、欧文書体の解剖図、文字の組み方など一通り読んだ学んだ後に、実際自分で何かを作ろうとするときによく思うことがあります。
例えば
  1. 書体の選択やコンビネーションってどのように決めるの?
  2. よいフォントとはどういうもので、それはどのように見つければいいの?
  3. テキストの適切な行間はどの位になるのか?
  4. テキストの組み方は箱組みとラギッド組み、左右中央などがあるけど、どのような時にどれを選ぶの?
  5. グリッドシステムとかあるけど、見えない部分なのに本当に作ってるの?作っているならその作り方は?
など具体的な質問が湧いてきます。

今回はこの中の「テキストの適切な行間はどの位になるのか?」ということについて説明していきたいと思います。

行間をどの位空けるのかということは、
  1. まずどのような書体を選び
  2. どのぐらいの大きさでその書体を使用し
  3. 段組の幅の広さも考えなければいけません。

これらのパラメーターは互いに密接に関連しておりどこかのパラメーターが変わればテキストの行間も変わります。またこのパラメーターの要素はさらに増やすこともできます。ですので、一概にこれが正しい行間の設定ですという回答は出ません。しかしながら、何がどう関わっているのかを理解すれば、どのようなプロジェクトでどのような条件があるのかを考慮すれば大体のところご自分で回答を見つけられると思います。

では、まず初めに有名なタイポグラファーたちはどのようにこのことについて述べているでしょうか。

スイス人のタイポグラファー、ヨースト・ホフリ氏 タイポグラファー、ブックデザイナー、また『Detail in Typography』、『Printed matter, mainly books』などの著者として有名。特にブックデザインの分野で多大な功績や著作を生み出している。は彼の本『Detail in Typography』の副題で「文字、文字間のスペース、単語、単語間のスペース、行、行間、段組」を列挙しておりますが、これらはマイクロタイポグラフィ マイクロタイポグラフィとは、マクロタイポグラフィの対の言葉で、マクロが全体的なレイアウトやグリッド、紙面の使い方やフォーマットなどを考察するものであるのに対し、マイクロとは微小で小さなこと、つまり文章を読みやすくするために必要な文字組みの詳細を考察するものです。を語る上でとても重要な要素であり、これらの要素のいくつかは行間にも影響を与えます。

また、文字サイズ、行間、行の長さなど、いくつかの要素の相互依存性を次のように指摘しています。 「同じ書体、同じ文字サイズで比べた時、行長が長くなればなるほど行間は広くとる必要がある。また、明るく見える書体は暗く見える書体よりも広い行間が必要である。」 Jost Hochuli: Das Detail in der Typografie, München 1990, p. 37 と記しています。

ちなみに欧文タイポグラフィでの行間(line spacing)とは、ベースラインから次の行のベースラインまでの距離を意味します。和文の組版用語では、(厳密にはスタート地点と終了地点は違いますが)行送りに相当します。欧文でリーディングと言うのが和文組版で言う行間に当たり、厳密に言うとある行のディセンダーから次の行のアセンダーの間のスペースを表します。和文組版の行間とはつまり欧文のリーディングにあたり、行送りが欧文の行間(line spacing)を表していることに注意して下さい。日本語に翻訳されたテキストではこのことがごちゃ混ぜにされていることもありますので注意してください。 例えば、欧文で活字の大きさが10 ptで行間が12 ptですとリーディングは2 ptに相当します。しかしながら、和文組版で言うと行送りが12 ptで行間は2 ptとなります。
図のように、活版印刷時代には行と行の間はリード(板状の鉛)で隔てを設けていました。このことからリーディングという専門用語が作られました。

また、ここで言う「明るく見える書体」というのを詳しく言うと、文字幅が広い書体、エックスハイトの高い書体、細い書体、文字の口が開いている書体等が含まれると考えられます。

ドイツ人のタイポグラファーである、ハンス・ペーター・ビルベルク氏 ドイツ人のタイポグラファー、ブックデザイナー、教育者、イラストレーター。ドイツでは、20世紀後半の最も重要なブックデザイナーの一人として有名。とフリードリッヒ・フォルスマン氏 タイポグラファー、ブックデザイナー、また『Detailtypografie』『Lesetypografie』などの著者として有名。マイクロタイポグラフィの専門家でもある。は『Lesetypografie』の中で、「行長が長くなればなるほど、行間は広くなり、短ければ短いほど行間は狭められる」 Hans Peter Willberg, Friedrich Forssman: Lesetypografie, Mainz 2010, p. 80と、同じようなことを書いています。


書体・文字サイズ

書体の種類や選択に関しては今後詳しく取扱いたいテーマではありますが、技術的な観点だけではなく、使用サイズや使用目的、美的観点、その他さまざまな要因から書体を選ぶことができます。また、異なる書体を同じサイズで使用しても、コンピューター上や紙の上では、異なる大きさに見えるという事実は重要なことです。

これは、アセンダー、ディセンダー、カウンターフォーム、エックスハイトの高低差、文字の横幅などによりその書体の全体の印象が変わるからです。 特に英語やフランス語やスペイン語など欧米の言語では、小文字がテキストの大部分を占めるので、小文字の造形がその書体の外観を決定づけると言っても過言ではありません。

ところで、異なる書体の比較検討をする際、コンピューター上での使用サイズを一致させてもそれらの書体をうまく比較することはできません。その代わりに、エックスハイトを一致させて比較検討することをお勧めします。こうすると異なる書体の見える大きさを同程度にしながらほかの細部の比較検討がしやすくなるからです。

図上部:左右とも同じポイント(大きさ)ですが、大文字の大きさもエックスハイトの高さも違うため異なるフォントを比較検討しづらいです。
図下部:この例のように両方のエックスハイトの高さを同じぐらいにするとその文字の見える大きさを大体同じぐらいにでき、文字の詳細を比較検討しやすくなります。



単語間のスペースとトラッキングの最小値、最大値

トラッキングとは、和文組版用語では字送りのことで文字と文字の間のスペースを定義する値です。これはマイクロタイポグラフィの重要な一要素です。フレデリック・W ・ガウディ氏 アメリカ人の印刷業者、芸術家、書体デザイナー。カッパープレート・ゴシックやガウディ・オールドスタイルなどが有名で、40歳を超えてから書体制作を行なったにも関わらず100以上の書体を残したことで有名。はトラッキングについて羊を用いた比喩で「小文字の文字間を広げるような者は羊も盗むだろう。」 Erik Spiekermann: Stop Stealing Sheep & find out how type works, Berlin 2022, p. 2と表現しています。この引用の本当の意味することを解説すると「小文字で書かれた単語は、本来単語として一つの塊として読まれるべき物なので文字間を開いてはならないため、そのような人の道から逸れたことをする者は羊も盗むだろう」と言うような意味です。このことをガウディ氏がかつて述べたと、タイポグラファーの間でまことしやかに伝えられていたものをエリック・シュピーカーマン氏 ドイツ人の書体デザイナー、グラフィックデザイナー、著者。大企業のコーポレート用書体を制作したことで有名で、ドイツ語圏だけにとどまらずアメリカ、ヨーロッパ中で精力的に活動している。がのちに本のタイトルとして『羊泥棒をやめて文字の仕組みを知ろう』としたのですが、本当は若干違う事をガウディ氏は言っていたとされています。

もちろんのこと、使用想定サイズを大きめに設定された書体(Display書体やタイトル用書体)を多少小さいサイズで使用するときや、普通のテキスト用書体でも6 ptなど極端に小さなサイズで使用する時は、小文字にもトラッキングを加えるし、その逆にテキスト用に設定された書体を見出しで使用する場合などはそのトラッキングをマイナスに設定します。

かつて1970年代にニューヨークのマディソン街の広告代理店で行われていた、文字同士が触れ始める程にトラッキングをする方法(当時は「セクシー・スペーシング」と呼ばれていましたが)は、読みやすさの観点からは適用しないほうがよいでしょう。 また、単語間のスペースは書体デザインの固定要素ですが、単語間のスペースが大きすぎたり、小さすぎたりする場合(初期のデジタル書体ではよくあること)トラッキングを調整することで解決することがあります。理想的な単語間のスペースの大きさについての規定はないのですが、シュピーカーマン氏は見出しでは小文字の「i」と同じ大きさにすることを提案しており、参考になる経験則です。 Erik Spiekermann: Über Schrift, Mainz 2004, p. 133
前後の空間も含まれています。


行間の最小値と最大値

多くのタイポグラファーの間では、テキストとして読まれるべきであれば、文字同士が横にも縦にも触れるべきではないという暗黙の了解が存在します。シュピーカーマン氏はタイポグラフィに関する最初の本『Ursache & Wirkung』(Berlin 1986)で、「視覚的なパワーと決断力を与えるためにアセンダーとディセンダーが触れることも受け入れなければならないこともある」 Erik Spiekermann: Ursache & Wirkung; ein typografischer Roman, Berlin 1986, p. 43と、このルールの例外を述べています。これはポスターや広告、大きな見出しには当てはまるかもしれませんが(これがシュピーカーマン氏の主張でもありますが)長文ではお勧めできません。

また、「単語間のスペースは行間より大きくてはならない。」 Hans Peter Willberg, Friedrich Forssman: Lesetypografie, Mainz 2010, p. 79というルールがありますが、これは通常気が散って読みにくい文章になるからです。なぜなら単語間のスペースが大文字のMの横幅と同じくらいになると、文章の中に大きな穴が見えだしてとても気になります。 行間は、ある行の終わりから次の行の始まりまで、目が緩やかにジャンプできるようなスペースを選ぶとよいでしょう。細い書体はカウンターフォームが大きいため、行間をより空ける必要がありますが、太い書体は通常行間をあまり空けなくてもよいでしょう。また、行間を広げたり狭めたりすることで、画面や紙面におけるテキストの「グレートーン」(テキストの明暗)が変化することも覚えておくとよいでしょう。このグレートーンをうまく用いて、全体のデザインを変えることができます。


段組の幅とレイアウトサイズ

幅50 mmの段組で理想的な行間を見つけた場合、その段組の幅を75 mm、100 mmと広げていくと、選択した行間が狭く見えてきます。簡単なルールは、「段組の幅が広くなれば、行間も大きくする必要がある」ということです。しかし、選択した書体や書体サイズにもよりますが、際限なく段組の幅を広げるのはやめましょう。テキストを追うのは通常目の動きだけでするのですが、長すぎる行は、首を左右に振らなければ全てを見ることができなくなり、読んでいてとても疲れます。また、狭すぎる行間は行の終わりから次の行の始まりに行くときに間違えた行に飛んでしまう危険性があります。 理想の段組の幅というのは特にありませんが、狭い段組ならラギッド組みの方が組みやすいでしょうし、1行の文字数が少なくとも55~60文字取れるようであれば、箱組みをしても問題ないでしょう。段組の幅の広さの設定は、レイアウト全体のサイズと、最終的にはアナログであれデジタルであれ、ページサイズに基づいて適切なものを選ぶとよいでしょう。

これらの例の様に、段組の幅が増えると、行間も大きくなっていく必要があります。

最終的に色々な要素が関係して適切な行間が決められると言うことは分かりましたが、では実際どのぐらいの行間が理想的な行間と言えるのでしょうか?

ハンス・ルドルフ・ボスハルド氏 スイス人のタイポグラファー、ブックデザイナー、著者、教師、画家、木版画家等さまざまな顔を持つマルチタレント。『The Typographic Grid』の著者として有名。は、彼の著書の中でこの値についてもう少し詳しく述べています。彼の場合は、行の間の空間をエックスハイトの上部から上の行のベースラインまでと定義しています。これは上記で述べたリーディングでも行間でもありません。この行の間の空間が「少なくとも、エックスハイトの約1,5倍になるべきだ」 Hans Rudolf Bosshard: Sechs Essays zu Typografie Schrift Lesbarkeit, Schweiz/Lichtenstein 1996, p. 15と述べています。

こんなところをいちいち測るなんてめんどくさいと思いますが、一般的なテキストの大きさ(約9~12 pt)で、一般的なエックスハイトの高さならば、行間(欧文の行間、つまりベースラインからベースラインまでの距離)4~5 mmの間に収まります。

和文の本文サイズですと「行間は基本的に、文字の大きさを上限として、それよりも狭め、下限は二分程度です。」 野村保惠『編集者の組版ルール基礎知識』2004年、 p. 74とありますから、比較してみるとその違いがよくわかります。


つまり、ここら辺の値から始めて、あとは書体の違いや使用する大きさ、段組の幅に合わせてご自分で調節してください。これはあくまで、印刷されたテキスト用書体の大きさですので、ウェブサイトやその他、ポスターなどの場合は、書体が表示されるメディア(スクリーンであるか、印刷であるか等)、その書体が読まれるであろう環境、文字が読まれるであろう距離等を考慮してその都度調整してください。その場合も、基本は読書環境で読まれる文字の行間が一番読みやすい行間ですので、この値がスタート地点となります。


参考書籍:
Bosshard, Hans Rudolf: Sechs Essays zu Typografie Schrift Lesbarkeit, Schweiz/Lichtenstein 1996
Hochuli, Jost: Das Detail in der Typografie, München 1990
Spiekermann, Erik: Stop Stealing Sheep & find out how type works, Berlin 2022
—: Über Schrift, Mainz 2004
—: Ursache & Wirkung; ein typografischer Roman, Berlin 1986
Willberg, Hans Peter und Forssman, Friedrich: Lesetypografie, Mainz 2010